ワイヤ式変位計とリニアスケールの違い|取り付け方式と精度で使い分ける

ワイヤ式変位センサとリニアスケール 基礎知識・原理

この記事の結論

  • 精度で選ぶならリニアスケール。µm級〜サブµm級の分解能はワイヤ式では届かない
  • 最大の違いは取り付け構造。リニアスケールはストローク全長にスケールを敷設し、平行度0.1mm以下の据付精度が要る
  • ワイヤ式は本体とワイヤ先端の2点を固定するだけ。既設装置への後付けや、仮設の計測に向く
  • 軌道の真直度が出ていない、経路が直線でない、工期が取れない——この3つに当てはまるならワイヤ式が現実解になる

直線的な位置や移動量を測る手段として、リニアスケールとワイヤ式変位計はどちらも候補になります。ただし両者は精度の優劣だけで選ぶものではありません。実務で効いてくるのは、機械にどう取り付けるかという構造の違いです。この記事では、取り付け方式・精度・設置条件の3点から使い分けを整理します。

まず結論:どちらを選ぶかの分かれ目

先に判断基準を示します。次のいずれかに当てはまるなら、リニアスケールが適しています。

  • µm級以上の分解能が必要(工作機械の位置決め、精密ステージなど)
  • 機械の設計段階からスケールを組み込める
  • 軌道の真直度・平行度が確保されている

一方、次に当てはまるならワイヤ式変位計が現実的な選択になります。

  • 既設の装置に後付けしたい、または試験用に仮設したい
  • ストロークが数m以上あり、全長にスケールを敷設するのが難しい
  • 測定経路が直線でない、または軌道の真直度が保証されていない
  • mm単位の精度で足りる

違い① 取り付け構造:全長に敷設するか、2点を留めるか

両者を分ける最も大きな要素が、取り付け構造です。

リニアスケールは、スケール本体(目盛りを刻んだ棒状の部品)を測定したいストローク全長にわたって敷設し、可動部に取り付けた読み取りヘッドがその上を移動する構造です。つまり、測りたい距離と同じ長さのスケールを、軌道と平行に固定する必要があります。

対してワイヤ式変位計は、センサ本体を固定側に、ワイヤの先端を可動側に留めるだけです。固定点は2か所しかありません。ストロークが5mでも10mでも、取り付ける部品の数は変わりません(図1)。

取り付け構造の違い リニアスケール 機械の軌道(真直度が必要) スケール本体(ストローク全長) ヘッド ヘッドが全長を移動 固定はストローク全長にわたる ・スケールを軌道と平行に敷設する必要がある ・据付は平行度0.1mm以下が目安。専用の測定器が要る ・機械の設計段階から組み込む前提になりやすい ワイヤ式変位計 軌道の真直度は問わない センサ 対象物 対象物が移動 固定は2点だけ(●印) ・本体とワイヤ先端の2点を固定するだけ ・初期調整はほぼ不要。既設の装置にも後付けしやすい ・滑車を介せば直線上にない動きも測れる
図1:取り付け構造の違い。リニアスケールはストローク全長にスケールを敷設するのに対し、ワイヤ式は2点を固定するだけで済む。

この違いは据付の手間に直結します。リニアスケールの取り付けでは、スケールと軌道の平行度を0.1mm以下に収めることが一つの目安とされ、ダイヤルゲージやストレートエッジを使った調整作業が必要です。取付面には平面度・直角度・平行度が1/100mm台で求められることもあり、複数本を並べる場合はレーザ測長器で位置を合わせます。

ワイヤ式にはこの工程がありません。本体とワイヤ先端を固定すれば計測を始められ、スプリング張力がワイヤのたるみを吸収するため、光軸調整や平行度出しに相当する作業が発生しないためです。

違い② 精度:この差は埋まらない

精度に関しては、リニアスケールが明確に上です。ここは正直に押さえておく必要があります。

光学式リニアスケール(ガラススケール)は、分解能0.244µm、1µm、10µmといった製品が一般的で、ハイエンドではnm台に達します。磁気式でも、測定長32m級の長尺タイプで分解能0.01mm(10µm)、繰り返し精度±0.01mm、スケール精度±{0.025+(0.02×L)}mmといった仕様が提供されています。

対してワイヤ式の直線性は±0.02〜0.15%F.S.が中心です。ここで注意したいのは、この表記がフルスケール比である点です。たとえばレンジ5,000mmのモデルで±0.02%F.S.なら誤差は±1mm程度ですが、レンジ42.5mのモデルでは同じ±0.02%F.S.でも±8.5mm程度になります。レンジが大きいほど絶対誤差も比例して大きくなるため、「ワイヤ式は長距離でも高精度」という理解は誤りです。

つまり、µm単位の位置決めが要る用途でワイヤ式を検討する余地はありません。逆に、mm単位で足りる用途にリニアスケールを選ぶと、精度に対して据付コストが見合わないことになります。

違い③ 設置条件と経路の自由度

リニアスケールはスケールと読み取りヘッドの位置関係が精度を決めるため、軌道自体の真直度が前提条件になります。軌道が歪んでいれば、ヘッドとスケールのギャップが変動し、測定値に影響します。屋外の構造物や、経年で歪みが出た装置では、この前提を満たすこと自体が難しい場合があります。

ワイヤ式は、ワイヤが引き出された長さを測る方式なので、軌道の真直度を問いません。さらに途中に滑車を挟めば経路を曲げられるため、直線上にない動きや、センサを離れた場所に設置したい場合にも対応できます。この自由度はリニアスケールにはない特性です。

一方でワイヤ式には接触式ゆえの制約もあります。ワイヤを固定できない対象には使えず、ワイヤは消耗品です。また引き出した状態で手を離すと、スプリングの反力で急激に巻き戻り、断線やセンサ破損につながります。

比較表:主な違いのまとめ

比較項目リニアスケールワイヤ式変位計
分解能0.244µm〜10µm(光学式はnm台も)±0.02〜0.15%F.S.
測定長数十mm〜32m級38mm〜42.5m
取り付けストローク全長にスケールを敷設本体とワイヤ先端の2点のみ
据付精度平行度0.1mm以下が目安。測定器が必要初期調整はほぼ不要
軌道の真直度必要不要
経路直線のみ滑車で曲げられる
後付け難しい(設計段階から組み込む前提)しやすい
表1:リニアスケールとワイヤ式変位計の比較(代表的な製品仕様をもとに作成。数値は一般的な目安)

用途で見る使い分け

リニアスケールは、工作機械の軸位置フィードバック、精密ステージ、半導体製造装置など、µm単位の位置決め精度が求められる場面で使われます。機械の構造に組み込まれ、常時フィードバックを返す用途です。

ワイヤ式変位計は、自動車の衝突試験におけるサスペンションやペダルの変位計測、建設機械のアウトリガー・伸縮ブームの位置検出、門型クレーンのトロリー位置、ダム水門の開閉制御、油圧シリンダーのストローク計測などで使われます。いずれも数m規模のストロークがあり、機械の設計段階でスケールを組み込むより、後から2点を固定するほうが合理的な用途です。

よくある質問

Q. ワイヤ式はリニアスケールの代わりになりますか?

A. 精度要求がmm単位なら代替できます。µm単位の位置決めには使えません。ただし「代わり」というより、取り付け条件が異なるため適用場面が違うと考えるほうが実態に合っています。

Q. どちらが安いですか?

A. 本体価格は機種によるため一概に言えませんが、長ストロークでは総額に差が出やすくなります。リニアスケールはストロークが長いほどスケール本体が長尺になり、据付工数も増えるためです。ワイヤ式は測定範囲が変わっても取り付け作業量がほぼ変わりません。

Q. 既存の装置に後付けするならどちらですか?

A. ワイヤ式が向いています。リニアスケールの後付けは、スケールを固定する取付面を新たに用意し、平行度を出す作業が必要になるためです。既設装置ではその面が確保できないことも少なくありません。

Q. ワイヤ式はリニアエンコーダの一種ですか?

A. 直線変位を電気信号に変換するという意味では同じ系統に属し、「ワイヤーエンコーダ」としてリニアエンコーダの製品群に含めて扱われることもあります。ただし目盛りを直接読み取るリニアスケールと、ワイヤの引き出し量を回転量に変換するワイヤ式では、検出原理が異なります。

まとめ

リニアスケールとワイヤ式変位計は、精度の高さだけで比べる対象ではありません。リニアスケールはµm級の分解能を持つ一方、ストローク全長へのスケール敷設と、平行度0.1mm以下という据付精度を要求します。ワイヤ式は精度で及ばないものの、2点を固定するだけで設置でき、軌道の真直度を問わず、滑車で経路も曲げられます。µm単位の位置決めならリニアスケール、mm単位で足りる長ストロークの計測や既設装置への後付けならワイヤ式——この線引きで検討すれば、選定は大きく外れません。

関連記事

リニアスケールそのものの仕組みや種類については、リニアスケールとは?仕組み・種類・精度と「変位計との違い」を図解で解説 で詳しく解説しています。

出典

PREV 一覧に戻る NEXT
タイトルとURLをコピーしました