ワイヤ式変位計とレーザー式の比較|測定範囲・対象物・環境で選ぶ

ワイヤ式変位計とレーザー変位計 基礎知識・原理

この記事の結論

  • µm級の分解能が要る、または対象物に触れられないならレーザー式。この2点はワイヤ式では代替できない
  • レーザー三角測距は約1mで測定範囲が頭打ちになる。それより長いストロークを追うならワイヤ式かレーザーTOF
  • 黒色・鏡面・透明のワーク、油や粉塵のある環境では、光学式は受光量が乱れる。ワイヤ式は対象物の表面状態に左右されない
  • ワイヤ式の直線性は%F.S.表記のため、長いレンジを選ぶほど絶対誤差は大きくなる点に注意

変位を測る手段としてまず候補に挙がるのがレーザー式変位計ですが、測定対象や設置環境によっては、ワイヤ式変位計のほうが確実に測れる場面があります。両者は優劣ではなく守備範囲が異なる方式です。この記事では、測定範囲・対象物の表面状態・設置環境という3つの軸で、どちらを選ぶべきかを整理します。

まず全体像:3方式の比較表

ワイヤ式と比較すべきレーザー式には、原理の異なる2種類があります。近距離をµm級で測る「三角測距方式」と、長距離をmm級で測る「TOF(光伝搬時間差)方式」です。まず3者を並べます。

比較項目ワイヤ式レーザー三角測距レーザーTOF(長距離)
測定範囲38mm〜42.5m数mm〜約1m5cm〜270m
分解能・直線性±0.02〜0.15%F.S.µm級(サブµmも可)分解能0.1〜1mm/直線性±1mm
接触の有無接触(ワイヤを固定)非接触非接触
対象物の表面影響を受けない黒・鏡面・透明は苦手反射率の影響を受ける
油・粉塵・水強い(IP69K品あり)受光量が落ちる受光量が落ちる
見通し不要(滑車で曲げられる)必要必要
初期調整ほぼ不要光軸調整が必要光軸調整が必要
表1:ワイヤ式とレーザー式2方式の比較(代表的な製品仕様をもとに作成。数値は一般的な目安)

違い① 測定範囲:レーザー三角測距は約1mで頭打ちになる

最初の分かれ目は測定範囲です。レーザー三角測距方式は、投光した光が対象物で反射して受光素子に戻る角度から距離を求めます。この原理上、距離が伸びるほど角度変化が小さくなり分解能が落ちるため、市販品の測定範囲は数mm〜約1mに収まります。実際、代表的な製品では最大100mm、最大500mm、20〜1,000mmといったレンジ構成になっています。

一方ワイヤ式は38mm〜42.5mを、レーザーTOFは5cm〜270mをカバーします。図1のように3方式を並べると、それぞれの守備範囲と、どこで選択肢が切り替わるかが見えます。

方式別・測定範囲のカバー領域 1mm 1cm 10cm 1m 10m 100m 1km 測定範囲(対数目盛) レーザー 三角測距 数mm 〜 約1m 分解能 µm級 ワイヤ式 38mm 〜 42.5m 直線性 ±0.02〜0.15%F.S. レーザー TOF(長距離) 5cm 〜 270m 分解能 mm級 ※数値は代表的な製品例。レーザー三角測距はµm級の分解能を持つが約1mで頭打ちになり、その先はワイヤ式かTOFの領域になる。
図1:方式別の測定範囲。レーザー三角測距はµm級の分解能を持つが約1mで頭打ちになり、その先はワイヤ式かTOFの領域になる。

ここで重要なのは、単に「長く測れるか」ではなく「その距離をどれだけ細かく追えるか」です。レーザーTOFは270mまで届きますが分解能は0.1〜1mm、直線性は±1mm程度です。ワイヤ式は直線性±0.02%F.S.のモデルなら、ストローク5mで誤差は理論上±1mm程度に収まります。

ただしワイヤ式の直線性は%F.S.(フルスケール比)表記である点に注意が必要です。レンジが大きいモデルほど絶対誤差も比例して大きくなるため、「ワイヤ式なら長距離でも常に高精度」とは言えません。必要な精度は、選定するレンジで実際に何mmになるかを計算して判断してください。

違い② 対象物の表面:光学式が苦手とするワーク

レーザー式は対象物からの反射光を受けて距離を求めるため、対象物の表面状態が測定結果に直接影響します。実務でつまずきやすいのは次の3つです。

  • 黒色・つや消しのワーク:光を吸収するため反射光が弱く、信号が得られないことがある
  • 鏡面・光沢のあるワーク:光が正反射で一点に集中し、受光素子が飽和して距離を誤る
  • ガラス・フィルムなどの透明体:光が透過してしまい、表面の位置を捉えられない

傾いた面も同様で、反射光が受光素子に戻らない角度では測定できません。これらには投光量やサンプリング周期の調整、正反射型への変更といった対策がありますが、いずれも条件出しの手間が発生します。

ワイヤ式は光を使わず、ワイヤの引き出し量を機械的に回転量へ変換します。そのため対象物の色・材質・反射率・傾きに測定結果が左右されません。黒いゴム部品でも、鏡面仕上げの金属でも、透明なアクリル板でも、ワイヤを固定できさえすれば同じように測れます。光学式で条件出しに苦労している場合、方式ごと切り替えるほうが早いことがあります。

違い③ 設置環境と見通し

油・粉塵・水しぶきのある環境では、レーザー式は投光窓の汚れや空中の粒子によって受光量が低下します。定期的な清掃が前提になる現場も少なくありません。ワイヤ式は受光量という概念がないため、この影響を受けにくく、IP69K対応のモデルもあります。

もう一つ実務で効くのが見通しの要否です。レーザー式はセンサと対象物の間に光路が通っている必要があり、障害物があれば測定できません。ワイヤ式は途中に滑車を挟めばワイヤの経路を曲げられるため、直線上にない動きや、センサを離れた場所に設置したい場合にも対応できます。

逆に、対象物が高温である、高速で回転している、触れると変形するといった理由でワイヤを固定できない場合は、非接触のレーザー式しか選択肢がありません。ここはワイヤ式では代替できない領域です。

迷ったときの選定フロー

ここまでの3つの違いを、選定の順序に並べ替えると図2のようになります。上から順に答えていけば、方式は自然に絞り込まれます。

迷ったときの選定フロー Q1. 対象物にワイヤを固定できる? 高温・高速回転・触れてはいけない対象か いいえ レーザー式 はい Q2. µm級の分解能が必要? かつストロークは1m以下か はい レーザー 三角測距 いいえ Q3. 黒色・鏡面・透明のワーク? または油・粉塵・水しぶきのある環境か はい ワイヤ式 いいえ Q4. ストロークは1mを超える? レーザー三角測距の上限を超えるか はい ワイヤ式 いいえ どちらも可(コスト・設置性で選ぶ)
図2:ワイヤ式とレーザー式の選定フロー。接触の可否と必要分解能が最初の分岐になる。

実務上、Q1とQ2で決まるケースが多数です。µm級が必要な検査工程はレーザー三角測距、数m級のストロークを追う試験や機械の位置検出はワイヤ式、というのが大まかな住み分けになります。

コストと運用の違い

価格は機種やレンジによって幅が大きく、一概に比較できません。ただし傾向として、レーザー三角測距は測定範囲が長くなるほど選択肢が減り、高精度・長距離のモデルほど価格が上がります。数mのストロークを光学式で狙うと、要求仕様を満たす機種が限られ、総額が膨らむことがあります。

運用面では、ワイヤ式は本体とワイヤ先端を固定するだけで初期調整がほぼ不要なのに対し、レーザー式は光軸調整と、対象物ごとの条件出しが必要です。一方でワイヤ式には、ワイヤが消耗品であること、引き出した状態で手を離すとスプリングの反力で急激に巻き戻り断線や破損につながることといった、接触式ならではの注意点があります。

よくある質問

Q. 精度が高いのはどちらですか?

A. 分解能で比べるならレーザー三角測距です。µm級、正反射型ならサブµm級に達します。ワイヤ式は±0.02〜0.15%F.S.が中心で、µm級の分解能が要る用途には向きません。ただし測定範囲が約1mを超えると三角測距は選択肢から外れるため、「どの距離で比べるか」で答えが変わります。

Q. 屋外で使うならどちらですか?

A. 外乱光や雨・粉塵の影響を受けにくい点ではワイヤ式が有利で、IP69K対応品もあります。長距離が必要ならレーザーTOFも屋外で使える設計になっており、港湾・土木・建設分野での採用実績があります。数十m以内で確実性を優先するならワイヤ式、100m超ならTOFという整理になります。

Q. 黒いワークをレーザーで測る方法はありますか?

A. サンプリング周期を長くして受光量を増やす、投光量を上げる、といった調整で改善する場合があります。ただし条件出しに時間がかかり、ワークが変わるたびに再調整が必要になることもあります。同じ対象を繰り返し測るなら、表面状態に依存しないワイヤ式に切り替えるほうが安定します。

Q. 両方を併用することはありますか?

A. あります。たとえば試験装置で、全体の大きなストロークをワイヤ式で追いながら、特定箇所の微小変形をレーザー式で測るといった使い分けです。測る対象とスケールが異なるなら、無理に1方式で揃える必要はありません。

まとめ

ワイヤ式とレーザー式は、置き換え可能な競合ではなく、守備範囲の異なる方式です。µm級の分解能が要る場合と、対象物に触れられない場合はレーザー式以外に選択肢がありません。一方、約1mを超えるストローク、黒色・鏡面・透明のワーク、油や粉塵のある環境、見通しの取れない設置条件では、ワイヤ式のほうが確実に測れます。まずは接触の可否と必要分解能で絞り込み、次に測定範囲と対象物の表面状態を確認する——この順序で検討すれば、方式選定で迷うことは少なくなります。

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